ニュースの概要
NECが、官公庁向けDXソリューションの文脈で、従来の「三層の対策」の今後とゼロトラストアーキテクチャの検討を取り上げました。三層の対策は、インターネット系、行政事務を扱うLGWAN系、個人番号利用事務系を分離し、侵入経路を限定する考え方として自治体の安全性を支えてきたものです。一方、クラウド利用、テレワーク、外部連携が広がる現在は、ネットワークを分けるだけでは利用者や端末の状態を十分に判断できません。今後は、分離を維持する領域と、認証や端末の信頼度で柔軟に制御する領域を切り分ける設計が焦点になります。
分析・見解
三層構えの防御は時代遅れではなく、脅威の入り口が変わった
三層の対策が果たしてきた役割は、単なる古い仕組みとして片付けられない。インターネットから行政内部の業務環境へ直接到達しにくくし、個人番号を扱う領域をさらに閉じることで、侵害時の被害範囲を物理的、論理的に狭めてきたからだ。特に、多数の自治体が限られた人員で運用する状況では、接続経路を少なくすること自体が有効な防御になった。
ただし、脅威と業務の位置関係は変わった。攻撃者は外部ネットワークだけでなく、盗まれた認証情報、委託先の端末、更新されていない職員端末、クラウド上の設定不備を足掛かりにする。反対に職員は、庁舎内の固定端末だけで仕事をするとは限らない。出先機関、在宅勤務、共同利用クラウド、国や他自治体とのデータ連携が増えれば、ネットワークの境界を基準にした許可判断は細かい例外だらけになる。
ゼロトラストは認証と端末の状態を毎回確認し段階的に許可する設計
ゼロトラスト(=境界ではなく都度の確認を信頼の根拠とする考え方)は、この境界を消すことではない。利用者、端末、アプリケーション、データ、接続元の状況を毎回確認し、必要な範囲だけを許可する設計である。行政分野では、まず統合認証と多要素認証を整え、職員の所属、職務、担当業務、雇用状態を正確に権限へ反映させることが出発点になる。人事異動や兼務の情報が認証基盤へ反映されなければ、高価な製品を導入しても過剰権限は残る。
次に重要なのが端末の信頼性だ。端末の暗号化、OSの更新状況、ウイルス対策、管理対象かどうかを接続前後に確認し、基準を満たさない場合は閲覧のみ、追加認証、隔離といった段階的な対応を取る。すべてを即時遮断する設計は安全に見えるが、災害対応や窓口業務を止める恐れがある。業務の重要度に応じて、許可、制限、停止を分けることが実用的なゼロトラストになる。
個人番号は強固に隔離し、一般業務は認証と連携で守る二重設計が現実的
独自の視点として、官公庁の移行では「三層をなくすか残すか」という二択を避けるべきだと考える。個人番号のように高い隔離性が必要なデータは強固な分離を残し、一般的な文書共有や庁内申請は認証とデータ分類を軸に効率化する、という二重の設計が現実的である。住宅の防犯に例えるなら、敷地の塀を撤去するのではなく、玄関、部屋、金庫それぞれに異なる鍵と監視を置く発想だ。
技術面では、認証基盤、端末管理、特権アクセス管理、ログ分析、データ損失防止を別々に導入するだけでは不十分である。誰が、どの端末から、どのデータへ、どの操作を行ったかを関連付け、異常時に権限を縮小できる連携が必要になる。例えば、通常は庁内からしか使わない人事データへ、深夜に未登録端末から大量照会が発生した場合、追加認証だけでなく照会件数の制限や管理者通知まで自動化する。米国政府のゼロトラスト施策や金融機関の適応型認証でも、成熟度は製品数ではなく、継続的な検証と対応の速さで測られている。
標準仕様より運用データの品質が今後の焦点になる
今後の焦点は、標準仕様の選定よりも運用データの品質になる。資産台帳が古い、権限の棚卸しが年一回だけ、ログを保存しても誰も見ないという状態では、ゼロトラストは看板に終わる。最初から全庁を変えるのではなく、電子決裁、職員ポータル、委託先接続など利用頻度とリスクが両立する領域で試し、認証失敗率、端末是正時間、過剰権限数、業務停止時間を測るべきだ。三層の対策は消えるのではなく、固定的な境界から、データと業務リスクに応じて変化する防御へ役割を変えていく。
ビジネスへの影響
製品の一括導入ではなく業務分類と権限定義から始めるべき
企業や自治体の意思決定者が最初に避けるべきなのは、ゼロトラスト製品の一括導入を移行計画と取り違えることだ。先に業務を、公開情報、庁内一般情報、個人情報、個人番号などへ分類し、業務ごとに許可すべき利用者、端末、時間帯、操作を定義する。その上で、認証基盤、端末管理、ログ監視のどこが不足しているかを確認すれば、投資の優先順位が明確になる。
費用対効果は削除時間や検知速度で測り、業務停止リスクも予算に含める
短期的には、特権アカウントの多要素認証、退職・異動時の権限削除、管理対象外端末の接続制限、重要操作のログ保存が費用対効果の高い施策になりやすい。次の段階で、クラウドや委託先との接続を同じ認証基盤に統合し、異常な利用を自動で低い権限へ切り替える。導入効果は、製品数ではなく、アカウント削除に要する時間、端末の未更新台数、インシデント検知から封じ込めまでの時間で評価する。
また、業務停止のリスクを予算に含める必要がある。厳格な遮断で窓口や災害対応が止まれば、セキュリティ強化が行政サービスの弱点になる。読み取り専用や一時的な代替端末など、業務継続策を設計段階で用意したい。調達時には、既存の人事情報や端末台帳と連携できるか、標準的なログを出力できるか、複数事業者の製品を組み合わせられるかを確認する。三層の対策とゼロトラストは競合する概念ではなく、重要情報には分離を残し、変化の多い業務には継続認証を加えることで、費用と安全性の均衡を取りやすくなる。